ドアを開けると客はいなかった。
無理もない。
この店はたった今開いたばかりなのだ。
こんな早い時間からバーで飲む奴もいないだろうから、
と狙って来てみたらまさにこんな感じだった。
ージンバックを。
ーそっか、じゃあお願い。
今日は暑かった。
暑い日はビールといきたいが、ジンバックが呑みたかった。 しかしバツが悪そうに「無い」と来たので仕方ない。
ジントニックと聞いてヘアトニックを思い出すオノレに少し嫌悪感を抱くも、 瞬く間にジントニックが差し出された。
すると、客が入ってきた。
彦摩呂に似たオトコ。
不釣り合いなオンナ。
ソーシャルディスタンスとやらを律儀に守って、
3席向こうに腰かけた。
こちらは嫌なことがあってカクテルを飲んでいるのに、
オンナづれの彦摩呂に少しイラついた。
こうなったら心の中であだ名をつけてやろう。 そうだ、この彦摩呂は今この瞬間から「フランスベッド」と呼ぶことにしよう。
オノレ、フランスベッド。
俺の好きなマッカランなんぞオーダーしやがって。
マッカランはストレートで呑みやがれってんだ。
妙な対抗心で呷(あお)るこちらはライム脚掛けのジントニック。
かすかに焼き鳥の匂いがする。
このフランスベッド、まさか焼き鳥後ここに来やがったな。
ーおかわり。
「はい。」
無機質な会話から差し出されるジントニック。
ウイスキーに変えれば良いのに、フランスベッドのおかげで変えにくい。
3席向こうではオンナがつまらなさそーな顏をしている。
マッカランを舐めながら、フランスベッドのトークは自分の趣味ばかりで相手の心を掴んでいない。
だからお前はフランスベッドなんだっ!
妙な決めつけでスマホを見たら、 いつもの面白い人たちのブログが更新されていた。 ひとまずそちらを見ていると、 3席向こうのオンナが帰ろうとしていた。
私の腕時計は20時45分を指している。
5分遅れの我が腕時計でも、夜の暗さは変わらない。
フランスベッドは会計をしようと、 黒革の2つ折り財布をパカパカしている。
どうしてそんなに慌てるかね。
はためくフランスベッドの財布の中。
スイスフランが入っていた不思議に、
私が疑問を抱くことはなかった。
っとまぁ、私がフィクションを書くとこんな感じになります。 オチがつけられませんね。
「フランスベッド」を連呼すると、 なぜか不思議な気持ちになるのは私だけでしょうか。
ちなみにフランスベッドとはなにかを調べると…
マットレス、寝具を作る
日本のメーカー。
げぇ。
会社の名前だったとは。
しかも日本の会社でありました。
もっとロンドンパンクみたいなものだと思っていたのですが、 違うのですね。フランスパンよろしく、硬めのベッドなのかと勝手に思っていましたよ。
ジンバックは本当に好きで、バーに行ったなら大抵オーダーします。 そして「ジントニックならある」という店は割とあります。
是非、ジンバックを置いてほしいです。※ジンバックを「置く」というより「用意してほしい」方が良いですね。
おっと、時間が来たので終了です。
written by 日照ノ秋人 この記事は23時45分に書き終わりました
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