bar 「時の扉」。
日頃の喧噪を忘れ、
ひとりで飲むには居心地の良い場所。
-上杉さん。
ちなみに、この店のマスターの名前は
「上杉」である。
上杉:名前で呼ぶの、やめてください。
-この、グレーのカクテルはなんですか?
上杉:名付けて「グロリアス」。
-ほっほ~う。
こんな感じにひとりで呑んでいると、背が高く、髪が長いなんだか派手な格好の男が入ってきた。
なぜか呼吸が荒く、病気なんじゃないかと思うほどで、心配になり声をかけた。
その「グロリアス」というカクテルを彼にも勧めながら。
ちなみにその男は名乗らなかったため、
仮に「たくらう」としておく。
-大丈夫ですか。
たくらう:大丈夫・・・。
-どこか具合悪いんじゃ無いですか。
たくらう:ムネが少し痛むくらい、いつもこうだからいいんです。
-うわっ!ナイフが刺さってるじゃないですか!
たくらう:いつもこうだから・・・。
-しかも錆びてますね。
たくらう:錆びたナイフといえば
僕ですから。
-誰かにやられたんですか。
たくらう:彼女に、モダンな彼女に・・・。
-つきあっている彼女ですか?
たくらう:Yes Summer days。
-いつもこうだからって言ってましたが、いつもなんですか?
たくらう:いつもだよ、やられるだけやられてる・・・。
-たまには抵抗しましょうよ、護身術とか身につけていないんですか?
たくらう:護身術は・・・必殺技なら若干持ってるけど・・・。
-へぇ!必殺技、どんなのですか!
たくらう:留守電にキックとか・・・。
-・・・他には?
たくらう:ネガティブな捨て台詞とか・・・。
-絶対反撃されますね。逆にプレゼント作戦でなだめてみましょう。
たくらう:それなら、すでに用意してある・・・。
-ほう、どんなのですか。
たくらう:刹那色のルージュを少々・・・
-・・・それは、何ですか。
たくらう:特に・・・意味はない・・・
-まあまあ、ネガティブな話はやめましょうよ。前向きに、前向きに考えましょう。
たくらう:生きてく強さ・・・ですかね。
-そうそう!強く生きるに限る!
たくらう:・・・もう迷わない。
-その意気ですよ!強く強く、武器をもって!
たくらう:晴れた日は苦手が武器ですからゴフッ!ゴホッ!ゴホッ!
-だ、大丈夫ですか!
たくらう:いや、いつもの自分じゃない言い方をしたもので・・・
その後ポジティブとネガティブの話が入り乱れ、遅くまで呑みました。
-最後に何か呑みますか。
たくらう:ひどくありふれたホワイトノイズをくれ・・・
-え、なんですかソレ。
たくらう:・・・。
そっと立ち上がりそのまま帰って行ってしまった。
もちろん、彼の伝票は宙ぶらりんである。
-この支払いもまさか・・・。
上杉:先ほどのお客様はめったにいらっしゃらないもので・・・。
-ウィ~、今日は酔っぱらっちまったなァ~。
上杉:酔ったふりですよね。
-ウィー、ヒック。
上杉:フワフワと酔いしれて、目覚めて知る現実ですよ、これが。
うわっ!出たっ!
こちらもおねがいします。
悪意は一切ございません。