きこりは、木に噛みつかれてハマったオノに苦戦していた。
ようやく食い込んだ切り口からオノを引き抜いた時、 勢い余って背後の泉にオノを落としてしまった。
ややっ、オノを落としてしまったぞ。
ふだん、「ややっ」なあんて言った事ないのに、 こんな人のいない森で言ってしまうとはどうかしている。
途方に暮れてコケのむす岩にへたりこもうとしたとき、 泉は泡立ち始め、すさまじい速さで女神が泉から現れた。
「あなたが落としたのは、この「炎のオノ」ですか?」
きこりは一瞬ワケがわからなかった。
ほのおのおの。
炎の小野。
そういえば学生の頃、クラスメイトに小野っていたな。
炎の小野なんていらないな。
でもこの女、そんなもの持っているように見えないし、 どう見てもオノだから多分違うな。
ほのおのおの。
ほの小野オノ。
略語かな。
ほのかに小野の香りがするオノ、かな。
だったらいらないな、クサイし。
きこりは女神に言った。
「違います。」
すると女神は一瞬イヤな顔をして、すさまじい速さで泉に消えた。
いったいなんなのだろうか。
変な勧誘だろうか。
それともアッチ系だろうか。
私の鉄のオノは深く沈んでしまったのかな。
そんなことをきこりは考え、途方に暮れてコケむす岩にへたりこもうとしたとき、 再び泉は泡立ち始め、すさまじい速さで女神が泉から現れた。
「あなたが落としたのは「怒りのオノ」ですか?」
怒りの小野…
ただでさえどうでもいい小野なのに、 今度は怒っているとは言語道断。 そんなもの必要なはずがない。 そもそもそんな小野を落としてもいない。
きこりは女神に言った。
「それも違います。」
すると女神は一瞬舌打ちして泉に消えた。
きこりは泉に向かって言った。
「私の鉄のオノは沈んでませんかぁ~!」
答えはないので、コケむす岩にへたりこまないといけないと思い、 へたりこむかこまないかの中間を無闇に繰り返しながら、 きこりは何度も泉に大声で問いかけた。
すると呆れた顔の女神が泉から顔だけ出して言った。
「鉄の小野はいません」
男女ってサ、すれ違うものよねぇぇぇぇぇぇ。
こちらには佐藤も登場。
written by 日照ノ秋人 たまには遠い目をしてみよう