ふにゃふにゃフィロソフィー

真の父親とは、男とは何かを考えるブログです。

これも他でやれ

私は「悪魔のよろい」と名付けられたモンスターだ。 この世界のある1部分の地域にしか存在しない、 人間界の奴らからは「レアモンスター」などと呼ばれている存在だ。

姿は頭からつま先までいかにも「西洋のよろい」といった感じで、 どの辺が「悪魔」なのかは謎だが、魔王様からいただいた名前ということもあり、 非常に気に入っている。

さらに光栄なことに、私は同じ悪魔のよろいの中でも 宝箱を魔王様から託されている。 その中身は「稲妻の剣」という唯一品の強力な 武器が入っているらしいが、詳しいことは一切不明だ。

どうも魔王様にとっては不都合なものらしいが、 そんなものなら破壊してしまえばいいのになぜ私に託すのかは謎である。 その宝箱の噂を知ってか、レアアイテムを持った レアモンスターを狩る目的でこの地域に足を踏み入れる冒険者もいると聞く。 しかし、勇敢な冒険者や勇者クラスに私は出会っていないので、 人間界には骨のあるやつはいないのだろう。

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私は今日も宝箱を持ち歩き、花に水をやるときは宝箱を小脇に抱え、 トイレで用を足すときは置き忘れないように細心の注意を払う。 すると、悪魔のよろい界隈が急にざわつきはじめた。 どうも人間界から勇者らしき4人組がこちらに向かっているという 情報が入ったらしい。 後日、私は偶然その4人組が仲間の悪魔のよろいと闘っているところを目撃した。

ひとりは戦士タイプ、ハンパ無ぇ強さだ。 ひとりは露出の多い女の魔法使い、戦士を援護している。 ひとりは勇者らしき男、後ろで指図をして偉そうだ。 ひとりはピエロみたいな奴、なぜか遊んでいる。

仲間の悪魔のよろいはあっけなく負けた。 特にあの戦士タイプはヤバイ。 ひょっとしたら魔王様より強いかもしれない。 彼らは言った。

「ちぃっ、宝箱持って無ぇじゃねえか!」

彼らのターゲットはどうやら私だ。 あの勇者くらいなら簡単に倒せそうだが戦士タイプがヤバイ。 これは逃げた方がいいと判断したところ、 「アイツ、宝箱持ってるぞ!」 遊んでいるピエロがあざとく私を見つけやがった。

私は逃げた。

宝箱を小脇に抱えて猛然と逃げた。 これを奴らに渡すわけにはいかない。 私は「悪魔のよろい」と名付けられているが 武器などは持たされていない。 ただの西洋のよろいがガッシャンガッシャン言ってパンチやらで闘うしかないのだ。 下界に居る「さまようよろい」でも鉄の槍を装備しているっていうのに!

戦士クラスからはは重装備だから逃げきれそうだが、 後ろから露出狂の魔法使いが炎の魔法をぶつけてきて熱い。 それが宝箱に引火して燃えてしまった。 私は稲妻の剣を胸に抱え、夜の廃墟の村に逃げ込んだのだ。


私はとりあえず暗闇に落ちていた布をかぶり、 村の生き残りとしてやり過ごそうと考えた。 逃げ込んだ建物は武器屋だったようだ。 床には錆びた剣などが落ちている。 最悪「武器屋」として誤魔化すこともできる。 私はカウンターの下に稲妻の剣を隠した。

奴らがこちらにやってきた。

私は奴らに話しかけた。 「ここは武器屋だ、何か買うかね?」 彼らは錆びた剣などを見てがっかりしていたが、 またあのピエロ野郎が「カウンターの下で何か光ってる」 とか言い出した。

どうも稲妻の剣は暗闇でも認識できるように、 うっすら光る能力があるらしい。 さっきの炎の魔法で蓄光したようだ。

「書物で読んだことあるぞ。その形、あの剣じゃないか?」

ヤバイ。
奴らはわかっている。

私は隠しきれないと思ったが、 武器屋として奴らの手に渡さない方法を思いついた。 「これは稲妻の剣、800000ゴールドだ。 所持金が足らないようだからこれは売れないね。」

完璧だ。

人間界で売っている最強の剣が40000ゴールドだと聞いたことがあった。それの20倍の値段。 買えるワケないのだ。

すると偉そうな勇者は
「アイツに出させるか…」
とつぶやくと、仲間三人を置いたまま魔法で飛んで行ってしまった。 私は逃げたかったが戦士タイプが出入口にいる為逃げられない。

1日経って、勇者は飛んできた。
「ホレ、800000ゴールドだ」

え。

なんと1日で資金調達してきたのだ。 これは観念するしかない。 魔王様には申し訳ないが、彼らに稲妻の剣を渡した。 しかし「アイツ」とはいったい誰なのだろう。

「1000000ゴールドもらってきたからよォ、焼き肉でも行こうぜ。」

勇者はどうやら200000ゴールド余分にもらってきたらしい。 なんて汚い奴だろうか。 畜生、世の中カネなのか。


魔王様を裏切ってしまった私はのうのうと生きてゆけない。 もちろんあの地域にも戻れないため、手元にある800000ゴールドを手に旅をすることにした。

最果てを目指し歩いていると、ある街にたどり着いた。 人間に話しかけると、「ここはユウサギの街、自由の街さ。」 と、モンスターである私に驚くことなく返してきた。 ここは本当に自由らしい。

いたるところにノートPCを持った者が何やらカタカタしている。 自分ビジネスがどうとかワケの分からないことを言っているが、 皆の顔は希望に満ちた顔をしていた。

街で情報収集していると、どうやら町はずれの森にある城にいる、 「イケハヤン」という者が凄いらしい。 そこのサロンに入ればとにかく稼げると。 NPO法人になって街の活性化が出来ると。

私の800000ゴールドの使い道は決まった。

しかし「アイツ」ことあの王様が、その後ここに攻め込んでくるとは、 私は知る由もなかった。

おしまい。

written by 日照ノ秋人 これは悪口ではございません。


前回の「他でやれ」とつながっております。

hiderino-akihito.hatenablog.com