bar 「時の扉」。
日頃の喧噪を忘れ、 ひとりで飲むには居心地の良い場所。
いつものように ひとりで飲んでいると気になる男が。
酔った勢いもあり話かけてみた。
ちなみに、男は名乗らなかった為、 仮に「稲葉」としておく。
-こんばんは。
稲葉:こんばんは。
-結構飲んでますね。
稲葉:・・・、まあ、心配ない問題ない。
-ヤケ酒ですか?
稲葉:ちょっとね・・・。
-会社の帰りですか?
稲葉:そうですね、電車乗って帰らないと。 電車・・・乗りたくないなと・・・。
-なぜですか?
稲葉:終点のない列車ならよかったのにって思うから・・・。
-病んでますね、おひとりですか?
稲葉:いえ、連れがトイレに行ってます。 ずいぶん経ちますが・・・。
その連れの男は、しばらくして帰ってきた。
やはり名乗らなかったため、
仮に「松本」とする。
稲葉:長かったな。
松本:・・・。
稲葉:おなかでも痛かったのか?
松本:・・・。
-無口な方ですねぇ。
稲葉:こいつしゃべらないんで。
-何か悩んでるんですよ、きっと。
稲葉:君はいいよ、ギター弾いてるだけなんだから。
-ギタリストなんですか?
稲葉:そうなんですよ、たまに口を開けば「GUITERは泣いている」なんて言って・・・。君はいいよ、君の中で踊りたいよ。
松本:Don't make me down!
-おおっ、しゃべった!
稲葉:いつもこれくらいのことしか言わないんですよ。
-おもしろいですね、何かオゴりますよ。
稲葉:じゃあ、俺、ウィスキーならなんでもいい。
-水割りですか?
稲葉:いや、オフ・ザ・ロックで。
松本:・・・。
-え、なんですかソレ?
稲葉:笑うところですよ、コイツ笑わねぇな。同じのでいいか?
松本:・・・。
稲葉:いいって。いやぁ、ありがとうオゴってくれて。 少し気が晴れたよ。
-いえいえ、やっぱり何かあったんですね。
稲葉:確かなものは闇の中ですよ。
-今日は忘れましょうよ。
稲葉:今日はかなり酔っ払ったな、オイ、そろそろ帰るか?
松本:・・・。
稲葉:まだ飲むか?
松本:・・・。
稲葉:そうか、SAVE ME!?ってやつな。
-言葉を発してないのによくわかりますね。
稲葉:まあ、長いからね。オイ行くぞ。 電車に遅れちまう。
松本:・・・。
-まったくあせってませんね。
稲葉:こいつはRISKYだなぁ・・・。
松本:・・・。
稲葉:コラ、Hurry up!今なら間に合う。 今日は家に帰らねぇからよ、泊めてくれ。
松本:・・・。
稲葉:そして、となりでねむらせてくれ。
松本:Getting lose,Yeah!
-ああ!しゃべった!
でも意味がわからない!
稲葉:笑うところですよ、あ!こら!手をつかむな! だからその手を離して!
なんだかんだ言って、仲良く出て行ったふたり。 そして、彼らの伝票もまた宙ぶらりんのままであった。
-また俺が支払うのかよ。
上杉:さようでございます。
ちなみに店のマスターの 名前は「上杉」である。
-じゃあツケで。
上杉:今日は払ってくださいよ。
-・・・この悪魔。
上杉:私は天使になんてなれなかったんでね。
-・・・。
上杉:今のは笑うところですよ。
こちらもおねがいします。
悪意は一切ございません。